トップ | 小説一覧 | くさり目次 | 悪魔の後光





嫌いな食べ物は、と聞かれたらあたしはこう答えるだろう。



「コンペイトウ」と。







 悪魔の後光・3







世界中のコンペイトウに罪はない。

トリュフにだって罪はない。

だけど、あたしはコンペイトウの次に嫌いなのはトリュフだと思う。











  茜ちゃん



  こんにちは。



  よく考えると年賀状以外で僕が茜ちゃんに手紙を送るのは

  初めてかもしれないね。



  そして、弥生の月の14日に会わなかったのも

  茜ちゃんが僕にチョコレートをくれるようになって以来、今年が初めてかもしれない。



  今年の僕からのお返し。



  僕が、茜ちゃんのところに、行かないということ。



  茜ちゃんが、僕と過ごさないでいいということ。



  それが僕からのお返し。



  僕は茜ちゃんの作ってくれるトリュフが、一番すきだよ。



  すごく、おいしかった。 ありがとう。



  だから今年もとっておきのお礼をしたかったんだ。



  ――― 茜ちゃん、覚えてる?



  初めて茜ちゃんが僕にトリュフをくれたとき、僕が返した、お返し。



  あれを見て、茜ちゃんは僕みたいだ、って言ってくれたけれど、



  僕は、ひと目見て、茜ちゃんを思い出した。



  君は僕の天使。そして、君は彼の天使。





  たまには、こんなことを言ってもいいよね。



  こういうことでもなきゃ、言えない。



  だから、笑わないで。





  茜ちゃんへ、



  これは僕からのきもち、そして、エール。



    君は、彼の天使。





              秋山佐之介













アキちゃんは、バカだ。

クソ兄貴に毒されて、バカになってしまったんだ。



なのに、こんなきざなことを書かれても、あたしには、笑えなかった。

こんな風にバカになったのは、あたしも同じかもしれない。



アキちゃん越しに移った、クソ兄貴のバカ。



その証拠に、アキちゃんの言葉にあたしは酔ってしまった。



アキちゃんは、バカで、そして、ズルい。





あたしのコンペイトウ嫌いの大元を作ったのは、よくよく考えるとアキちゃんだ。

逆恨みとも責任転嫁とも、何とでも言ってくれ。

そんな大昔にまで遡らなくても、すぐ近くに、直接の原因はある。

でもそれについて考えるなんて、あたしには恐ろしくてできやしない。

禍々しすぎて、思い出したくもない。



思い出したくないのに、口の中の甘さが、消えてくれない。

あのコンペイトウには、特殊な砂糖が使われていたのかもしれない。





唯一、クソ兄貴だけが、同じ味を、知っている。







アキちゃんの、バカ。



   「君は彼の天使」





・・・・・目の前にいたら、訊けるのに。



アキちゃんの脳みそがミックスされるくらい、揺さぶりをかけて、訊けるのに。



   「彼って、誰。」



どうしてだか、無性に答えを訊きたかった。



でも訊けない、すぐ側に居てくれないから、訊けない。









天使を忌々しげにとらえた悪魔は、それでいて決して天使をむげには扱わなかった。



少しでも粗雑に扱ってしまえば壊れてしまうであろう天使を、

あの日、そ、と机の上に置いてくれた。

囚われの天使は、無傷のまま、帰還した。





そして、新たな輝きを、その中に宿す。







  悪魔はのたもうた。



        

    過ごせなかった3.14の数なんか、あっという間に追い越すから。





  さらに机の上の天使に、一瞥をくれてやって、ワケのわからないことをいいやがる。





    まぁ。それでも数えて見てな。





あたしはエスパーじゃない。



だからクソ兄貴が考えていることなんて、分かりゃしないんだ。



もしそういう力があっても、クソ兄貴のことだけは分かりたくもない。





けど、なんとなく、感じた。バカになったついでに、感じてしまった。





  2.14にあたしが贈るドクロ、



  3.14に天使に増える光。











   ―――アキちゃんへ









       ヤツは我の悪魔。





             間違いなくね。







     P.S.



      アキちゃん。これは何かの嫌がらせですか。

      かわいいけど、

      確かにかわいいけど、



      なんでこんなカード、選んだの?



      コンペイトウが、コロコロ転がる柄。







         ねぇ。なんで?



                      茜







Fin





Written by みなみ







←2へ







********************



これを頂いたときは、嬉しさのあまり部屋中を飛び跳ねて回る勢いでした。

生まれてはじめての鼻血を出すんじゃないかと思いながら、にやける顔をこらえて読み進めました。

そして読み終わったあとは、ひたすら感嘆のため息。

茜も兄もアキちゃんも愛しくてたまらないです。

ひとり占めするにはもったいなさすぎるので、サイトに掲載させていただきました。

(いきなりのお願いを快諾してくださったみなみさんに感謝です)

自分の頭の中だけにあったものを他の方に読んでいただけるだけでなく、こんなに素敵なものまで書いていただけて夢のようです。

みなみさん、本当にありがとうございました。


2004.03.10 雪平かなめ



トップ | 小説一覧 | くさり目次