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「宗太と孝太ってホント似てるだろ」
 つんつん頭が言った。


   07.夢か現か - 05 -


「まあ、普段はこの通り中身も全然違うから間違うこともないけど」
 会話がなくなって、ふすまの向こうから聞こえてくる、包丁がまな板を叩く音だけが大きく響いていた。
 いるはずのないところにいるのって、息が詰まる。


「ラーメンできたけど」
 ふすまが開いて神くんの声。
 止まったままだった空気がまた流れ出したような感じがした。
「どんぶり三つしかないから誰か鍋で食って」
「俺、鍋でいい」
 宗太郎さんが立ち上がる。少ししてから取っ手が二つついた大きめの鍋を持って戻ってきた。菜箸とお玉を使ってそのまま器用に食べ始める。
 わたしも取りに行こうとしたけど、下にしてた右足、痺れて立てなかった。とりあえず空のプリンのカップと紅茶のカップをテーブルから下ろした。
「ほい」
 つんつん頭がわたしの分も持ってきてくれた。
「ありがとう、ございます」
 神くんがガラスのコップに麦茶をついでくれて。
「いただきます」
 神くんが作ってくれたラーメン。キャベツとかネギとかほうれん草とか野菜がいっぱい入ってる。
 インスタントラーメンってあんまり好きじゃないけど、神くんが作ってくれたのはおいしい。
 神くんと宗太郎さんとつんつん頭がなんとかって言うバンドの話とか、三年生の友達の話をしているのを聞きながら食べた。
 やっぱりわたしだけ場違いな感じがしたけど、気にしないようにする。今だけは。
 ラーメン、おなかが空いてるから余計においしいのかもしれない。朝ごはんは結局食べなかった。
 夜はどうしよう。冷蔵庫の中、材料はほとんど残ってなかったはず。帰りに買い物して行かないと。



「孝太、なんか雑誌取って」
 いつの間にかつんつん頭はもう食べ終わっていた。漫画雑誌をつんつん頭に渡した神くんも、宗太郎さんも食べ終わってしまったみたいだった。わたしのはまだ少し残ってる。
 あ。
 不意に凄いことに気がついてしまった。
 誰かと一緒にこうやって食事をするの、本当に久しぶり。
 泣きたくなって。
 ラーメンを食べてるせいもあるけど、鼻水をすすった。
 今夜はきっと苦しい。温かさを感じてしまったから。誰かと一緒にいる心地好さを思い出してしまったから。
 どんぶりを持ち上げてスープを少しだけ飲んでから、最後にとっておいた麦茶で温まった体を冷やした。
「ごちそうさまでした」
 小さく言って顔を上げたら、神くんの目が。
 忘れてたわけではないけど、ちゃんとわかってなかったのかもしれない。神くんが同じ空間にいること。
 おまけに、つんつん頭と宗太郎さんもこっちを見ている気が。自意識過剰。急に顔が熱くなってくる。
 手にも汗をかいてきたから制服のスカートを握って下を向いた。
「坂口さんて」
 神くんが言ったからスカートを握ってる手に力が入った。
「食べてるとき、凄い食べることに集中すんね」
「え、いや、そんなことは」
 何を急に言い出すの。
「まさに一心不乱って感じだったけど」
 つんつん頭まで言い出して、どうしていいかわからなくなった。
 そんなふうに見えるのかな。恥ずかしくて、顔、上げられない。
 頭の中では他のことたくさん考えてるのに。それよりも人が食べてるところなんて見ないでほしかった。
「いつも、食事は一人だから、だから、話しながらとか、できなくて」
 焦って、また自分でもわけのわからない余計なことを。
 よく考えなくても今まで男の子となんてまともに口をきいたことがなかったわたしが、男の子と一緒にラーメンを食べてるこの状況は異常で。
 近頃やっぱり変だ。
 わたしの日常がおかしくなってる。
 人は独りでは生きていけないと誰かが言う。
 わたしは独りだった。ずっと独りだったしこれからもそうなのだと思っていた。
 でも、神くんと出会って、何かが変わったような気がして。
 神くんはやっぱり神様なのかもしれないと思わずにはいられなくて。
 もしかしたらもう独りじゃないのかもしれないと思わずにはいられなくて。
 でも結局それは甘い夢でしかないってわかってる。その甘い夢に囚われてしまってはいけない。
 夢から覚めてしまったらきっとわたしは現実に耐えられなくなってしまう。
 だから、その前に現実に引き戻してくれた宗太郎さんにも、本当は感謝したほうがいいくらいで。

(神様)
 早くわたしを。

「そろそろ、帰らないと」
 思ったよりも簡単に声が出せた。
 スカートを握り締めていた手を緩めて、足に力を入れて。
 どんぶりを片付けようとしたけど神くんがいいよって言ってくれた。
 玄関で靴を履いて、ドアを開ける。
「ラーメン、凄くおいしかった。ありがとう」
 頭を下げて、神くんを見られなかったからそのまま向きを変えて歩き出した。

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