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 そもそも浩行さんと茜ちゃんがさっさとくっついてくれれば、こんなに色々余計なことを考える必要なんてなかったのに。
 僕は大きなため息をついた。


  アキちゃんの憂うつ・2


「とにかく、茜ちゃんを迎えに来てください」
『今夜はアキのところに泊めることになってただろうが』
「それはそうですけど」
 ついつい浩行さんの頼みを引き受けてしまった昨日の僕を恨む。
 昨日の僕と言うより、浩行さんを甘やかしてしまった今までの僕を恨んだほうがいいのかもしれない。
「もう茜ちゃんには浩行さんのこと、言っちゃったんだし」
『それはお前が勝手にしたんだろ。俺には関係ない』
「それ本気で言ってるんですか」
 こんな人のために僕は初恋を諦めてしまったわけじゃないんだけどな。
 茜ちゃんが幸せになれるならと、幼いなりに考えた結果なのに。
「大体女の人を連れ込ませるために茜ちゃんを預かったんじゃありません」
『……茜が言ってたのか?』
「茜ちゃん以外にいないでしょ」
 しばらく沈黙する浩行さん。
『あの、バカ』
 苛々したように呟く。こっちのほうが苛々してるってことを浩行さんはわかっているんだろうか。
 本当に僕は何のために茜ちゃんを。
「茜ちゃん、泣いたんです」
 浩行さんには秘密にしておこうと思っていたことを、結局教えてあげる羽目になった。
「浩行さんがお兄ちゃんじゃないって知って、泣いたんです」
『だから』
 浩行さんが素直じゃないってことも、やたらと往生際が悪いことも知ってたけど、ここまでくるとさすがに。
「これからのことを話し合うせっかくのチャンスを逃してどうするんですか。もうどうなっても知りませんよ」
 本当に大切な人には悲しい思いをさせて、それがただ単に茜ちゃんに愛されているという自信があるからなのか、逃げているだけなのかは知らないけど。
「茜ちゃんはともかく浩行さんまで、僕が男だってこと忘れてません?」
 異性として好きだとかそういうことは関係なく、僕は茜ちゃんを泣かせたくないと思う。
 茜ちゃんには笑顔でいてほしいと思う。
 だから。
「今、茜ちゃんお風呂に入ってるんですけど、僕がどうにかしようと思えばできるんですよね。年頃の男女が一晩二人きりでいて間違いが起こらないとも限らないし。飼い犬が飼い主の手を噛むことだってあるんですよ」
『アキ、お前』
「茜ちゃんに悲しい思いをさせるような人に、どうこう言う資格はありませんからね。浩行さんにその気がないなら僕が茜ちゃんを幸せにします」
 それだけ言って僕は受話器を置いた。
 これで来ないなら、決定的だ。
 浩行さんなんかにはもう二度と茜ちゃんは渡さない。


 十五分後、きっと全力疾走してきたんだろうけど、そんな気配は微塵も見せずに現れた浩行さんをちょっとだけ尊敬した。本当にちょっとだけ。
 こんなに茜ちゃんのことが大事ならどうして最初からそうしないんだろう。
 浩行さんは大人のはずなのに僕よりずっと子供みたいだ。
「アキ、茜は」
 二人の邪魔をするつもりはないけど、浩行さんはどんな顔をするんだろうと考えると言ってみたくなる。 茜ちゃんは大切な友達だけど、いつでもそれ以上の女の子になるんだってこと。
「まだお風呂です」
「何もしてないだろうな」
 僕はにっこり笑って言う。
「浩行さんが茜ちゃんを大切にしてくれれば」
 でも茜ちゃんも浩行さんも素直じゃないから、きっとこれからも僕が二人の間を取り持つことになるんだろうなと考えたら、また大きなため息をつきそうになった。


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