top - novel - MY GOD
隣の遠藤くん
俺の隣の席は神くんという人で、女子が噂していたのを聞いたところによると出席日数が足りずに留年して、本当なら三年生で一つ年上らしい。
新学期初日から遅刻してきて自己紹介は不機嫌そうな声で名前を言っただけ。やばい人の隣になってしまったと最初は思ったけど実際はそんなことはなかった。何かのきっかけでちょっと話をしてみたら年上だからとか気にしないで普通に同級生として接してくれたし、俺が敬語を使ったらタメ口でいいと言ってくれた。
確かにクラスの空気からは浮いているけど悪い意味じゃない。何となく、俺たちとは違った空気をまとっているような感じ。俺はいつの間にか神くんに憧れるようになっていた。
神くんは頭がいい。鬼の穂高にそんなの絶対わかるわけねーって問題を当てられてあっさり解いたときはしびれた。本人は去年もやったからって謙遜してたけど、俺が一年後同じ問題を解けるかと言われたら無理だ。
神くんは運動神経もいい。この間の球技大会で同じバスケのチームになったときは神くんに見惚れてパスを受け損なったりもした。(そして女子にブーイングされた)
この高校も猛勉強してやっと入れて試験は毎回何とか赤点を免れているレベル。運動神経は悪くはないけどそれだけ。どちらかと言えば落ちこぼれの部類に入る俺は、正直できすぎてる奴は気に食わないことが多いのに年上だからか神くんにはそういう感情は抱かなかった。
神くんの前の席は坂口さんという人で神くんとは別の意味でクラスから浮いている。いつも一人で俯いているイメージ。中二のときにも同じクラスにいつも一人の奴がいた。俺が見た限りではそいつは自分から好んでそうしているようだったけど、坂口さんはそれとはまた違うような気がする。どちらにせよ俺には直接関係ないからどうでもいい。どうでもいいのについ目が行くのは席の都合上必然的に坂口さんが視界に入るのもあるけど、もう一つの理由は神くんだ。
神くんの視線の先にはいつも坂口さんがいる。授業中、俺が見るといつも神くんは前の席の坂口さんを見ている。見ていると言うか見つめている。間違いなく坂口さんを見つめている。球技大会のときも試合を観ていた坂口さんをさり気なく気にしていたしボールが坂口さんを直撃した後はあからさまに気にしていた。(そんな神くんを気にしていた俺は途中から補欠と交代させられた)
神くんと坂口さんが付き合っているらしいという噂を耳にして、やっぱりと思うのと同時に少し納得できなかったのも事実だ。好みの問題かもしれないけど坂口さんはありえない。少なくとも明るくて可愛い子が好みのタイプの俺は。坂口さんには俺にはわからないようなよさがあるのだろうか。
噂の真相と熱い視線の意味が気になって体育の時間、体育館の壁に寄りかかって試合の順番を待っていた神くんの隣に陣取って訊いてみた。
「坂口さんと付き合ってるって本当?」
もちろん周りには聞こえないように小声で。我ながら勇気があったと思う。もしかしたら怒るかもしれないと思っていた神くんは意味ありげに少しだけ笑った。俺が女だったら間違いなく惚れるような笑顔だった。と言うか男だけどぐっときた。
「本当」
「え!」
「だったらいいね」
「え?」
「と思うような関係」
「……ええと、それって神くんの片思いってこと?」
ない頭で出した答えに神くんはもう一度ぐっとくる笑顔を浮かべたから、多分そういうことなんだろう。よくよく思い返すと確かに視線はいつも一方通行。坂口さんはプリントを回すときもあまり後ろを見ようとしない。
「俺、神くんなら絶対うまくいくと思うんだけど」
「俺もそう思う」
涼しい顔して結構凄いことをさらりと言った神くんを思わず見つめた。
「あのさ、坂口さんのどこがいいの?」
「どこがいいかすぐに答えられないところ」
それって本当に好きなの?とうっかり訊きそうになったのは秘密だ。うまくはぐらかされたことに気づいたのは、体育の授業が終わった後だった。
どう見ても同じクラスという接点しかなさそうな不釣り合いな二人の行く先に、旺盛な俺の好奇心がそそられないわけがない。
こうして俺は神くんと坂口さんの仲を静かに見守っていこうと密かに決意したのだった。
top - novel - MY GOD