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 三男のお宅訪問

 こんにちは、神啓太郎です。
 少し前に兄たちの大切な人に酷いことを言ってしまったブラコン三男です。

 背筋が凍りつくような思いはしたものの、結果としては何故か兄たちに喜ばれるという不思議なことになりましたが、あの人に酷いことを言ったことに変わりはありません。悪いことをしたら謝れと、拳をもって教えてくれたのは二人の兄ですが、その兄が僕があの人に謝りに行きたいと言ったのをすっかり忘れてしまい、と言うよりも意図的になかったことにしたのでしょうか、とにかくそんな感じなので一人で謝りに行くことにしたわけです。

 と言うわけで、現在「坂口」と表札が出ている家の前にいます。

 上の兄の机の前に「坂口伊織」という名前と、住所、電話番号が書いてあるメモがいつのまにか貼ってあったことには気づいていたので、兄たちに訊く手間は省けました(そもそも訊いたところですんなり教えてもらえたとは思えません)。ある日上の兄の部屋を掃除していた母が、複雑な顔をして出てきたのもあのメモのせいだと思われます。どういう意図があってのことかわかりませんが、上の兄にはあまりにも似合わなくて嫌でも目を引くハート型のメモだったのです(しかもわざわざ自分で切り抜いて作ったようです)。
 住所を無事に手に入れ最寄り駅と大体の場所は事前に調べたものの、住所のメモを片手に家を訪ねたことはなかったので大いに迷いました。僕は恐らく方向感覚がないほうだと思われるので、それも原因になっていたかもしれませんが何とか辿り着けたのでよしとしましょう。

 あの人の家は住宅街の一画にありました。少し古びた感じの一軒家です。
 チャイムを鳴らそうとしたところでふと気づきました。僕は学校が終わってから直接ここに来ましたが、あの人はまだ帰ってきていないかもしれません。家の人が出てきたら何と言えばいいのでしょう。家に辿り着くことだけを気にして、事前に連絡するのを忘れていました。
 ありったけの勇気を出してやっとここまで来ました。一度帰ったらまた来られるかわかりません。
 直接謝るのが無理なら電話があります。
 もう一つの選択肢が頭に浮かんで逃げ道ができました。
 ここまで来て引き返すなんて、と思う気持ちはありますが仕方がありません。決めたらさっさと戻ることにします。
 僕は意気地なしです。


 僕も一応携帯電話を持っています。残念ながらアドレス帳に登録されているのは家族だけであまり活用できていませんでしたが、やっと役に立つときがきました。携帯電話なら自分の部屋で誰にも聞かれずに電話できます。
 ベッドの上で正座をしました。何度もイメージトレーニングをしてから携帯電話を手にします。時計がちょうど十九時十分に変わったのを見てから慎重にボタンを押していきました。

『はい、もしもし』

 相手が予想よりも早く出たことに少し動揺しました。
『もしもし?』
「あの、神と申します。伊織さんはいらっしゃいますでしょうか?」
『……わたし、です、けど』
「突然すみません。僕、神啓太郎と言います。兄たちがいつもお世話になっています」
 電話の向こうからは沈黙だけが返ってきました。僕は一気に先を続けます。
「この間は、失礼なことを言って本当にすみませんでした」
『……あの、別に』
 明らかに困惑している声です。一度出くわしだだけの相手からいきなりこんな電話をもらって戸惑うのも当然です。それにこの人は普通の人よりもコミュニケーションをとるのが下手なような気がします。僕も人のことは言えませんが。
 謝罪のための電話なのでこれで用は終わりです。あとは切るだけです。でも。
「今度会いに行ってもいいですか」
 迷う前に声は勝手に出てくれました。もう一度会って話をしてみたいという気持ちは自分が思っている以上に大きかったようです。
『え、なん、で』
「……兄たちの、話を。したいなと、思って」
 咄嗟に考えた理由でしたが我ながらいい理由を思いつきました。突然の申し出にもかかわらず考え込んでいる気配が伝わってきます。
『あの、いつ』
 返ってきたのは拒絶の言葉ではありませんでした。僕は安堵しながら答えました。
「明日の五時、そちらにお邪魔してもいいですか」
『……大丈夫、です』

 それからどういうやりとりをして電話を切ったのかよく覚えていません。
 携帯電話を握った右手は汗で湿っていました。心臓の音も、いつもより大きく速く響いています。深く息を吐き出してそのままベッドに倒れ込みました。目を閉じて数分前のやりとりを反芻します。
 明日の五時。あの人の家へ。
 次の瞬間、大切なことを言い忘れていたことに気がついて、飛び起きました。僕は緊張する間もなくもう一度あの人へ電話をかける羽目になりました。

「何度もすみません。あの、僕が電話したこととか、兄たちには絶対に言わないでください。お願いします」

 このことが兄たちにばれたら、とてもまずいことになる予感がしました。





 いつもより急いで学校から帰ってきて、僕は真っ先にキッチンへ向かいました。夕飯の支度をしている母に声をかけます。
「あら啓ちゃん、お帰りなさい。あれ、できてるわよ」
 母がテーブルの上を指しました。小さめの紙袋が乗っています。
「ありがとう、お母さん」
「うふふ、あまり遅くならないようにね」
「うん」
 友達の家に持って行きたいから、と頼んで母に焼いてもらったバナナケーキを手にして答えました。外に出っ放しの兄たちのことを心配している母ですが、ほとんど外に出ることのない僕のことも心配しているようなので友達の家と聞いて喜んでいるのかもしれません。良心が少しだけ痛みました。

「啓太郎」

 いつもこの日のこの時間は家にいないはずの上の兄が、何故か今日に限って帰ってきていました。自分の運のなさを呪うのもいいかもしれません。靴を履いていた僕は恐る恐る振り返りました。
「何」
「どっか行くの」
 心臓が大きく跳ねました。できるだけ平静を装って立ち上がります。
「ちょっと、友達のところに」
「お前、友達いたっけ」
「……いるよ」
 宗兄なんか大嫌いだという言葉はもちろん間違っても口には出しません。動揺を悟られてはいけません。
「行ってきます」

 昨日は大いに迷った道も、今日は少し迷っただけで済みました。早めに家を出たおかげで約束の時間の五分前には家の前に着きました。
 心臓は駅に着いたときから痛いくらい速く脈打っています。この性格のせいで外では感情が表に出にくく物事にあまり動じないと勘違いされることがありますが、ただ表に出ないだけです。心の中はとんでもないことになっています。僕はあいにく兄たちのように図太い神経は持ち合わせていません。
 震えそうになる右手でチャイムを押しました。反応がありません。壊れているのでしょうか。ドアをノックしてみると、足音が聞こえてきてドアが勢いよく開きました。
「……あの、こんにちは」
「こ、こんにち、は」
 僕が言うと、僕と同じように制服姿のままのその人も返しました。
「これ、つまらないものですが、どうぞ。バナナケーキです」
 鞄の中から紙袋を取り出して渡しました。
「あ、あり、がとう……ございます」
 紙袋を受け取ったその手は、震えているように見えました。

「どう、ぞ」
 バナナケーキが載ったお皿に並んで大分年季の入った湯のみがテーブルの上に置かれました。置いた手が震えていたのはやはり気のせいではないと思います。僕相手にここまで緊張している人を初めて見ました。相手が僕以上に緊張しているのがわかると、少し余裕が出てきます。
 通されたのはリビングでした。ガラスのテーブルに灰色のソファ、向かいにテレビが置いてあります。他に棚や細々したものが並んでいましたが全体的に殺風景な部屋です。少し薄暗い感じがするのは、この家の独特の空気のせいかもしれません。
 家には他に誰もいないようでした。家の人がいたらどう挨拶しようという心配は杞憂に終わりました。
 とても緊張している様子のその人は僕と少し距離を置いてソファに腰を下ろしました。実に気まずい空気が二人の間に流れます。
 今日は一応兄たちの話をするという名目でここに来たことを思い出します。足元に置いた鞄を膝の上に乗せました。
「兄たちの写真を持ってきたんです」
 隣の人の顔が僕のほうを向いたのがわかりました。
「父が、カメラが趣味で、アルバムに入りきらない写真も結構あって、そのうちの一部なんですけど」
 僕が差し出した小さなアルバムをその人は両手で受け取りました。
「一応赤ちゃんのときから去年くらいまでの写真をまとめてみたので、よかったら貰ってください」
「え、いいん、ですか……?」
 さっきから一度も僕を見ようとしなかった目が、初めて僕を見ました。
「そのつもりで持ってきたので」
「あ、ありがとう。わ、どうしよう、本当に、嬉しい」
 本当に嬉しそうに、笑みました。見てはいけないものを見てしまった気がするのは何故でしょう。
 ふわりと、花が咲くように笑う人なのだと思いました。下の兄が見せるような綺麗な笑顔とは違いますが、それでも僕には……いけません。これ以上は考えるだけで兄たちに何かされそうです。
 やっと僕を見たその人の視線はすぐにアルバムに移りました。
 アルバムの一ページ目は、生後何ヶ月かの兄たちが二人一緒に泣いている写真と眠っている写真です。こういうのを見ると、兄たちも同じ人間なんだなと少し安心します。
 ページを捲ろうとしていた手が不意に止まってそのままアルバムを閉じました。
「何か、もったいなくて、見れない」
「それじゃあ、後でまたゆっくり見てください」
 再び沈黙が流れ間が持たなくなったので僕はバナナケーキを食べることにしました。隣の彼女も僕につられてかお皿に手を伸ばします。
「……おいしい」
 微かに洩れた声は僕にもしっかり聞こえました。
「母が焼いてくれたんです」
 会話は続きません。
 彼女も僕も黙々とフォークを口に運びました。訊きたいことがないわけでもありませんが、どう切り出せばいいのかわかりません。
「ごちそうさまでした」
 僕が最後の一口を飲み込んだのと同時に小さな声が言いました。
 温くなってしまったお茶をすすって一息つきます。
「あの」
 声を発したのは僕ではありません。僕の隣の人です。俯いたままのその人の横顔は、長い髪で隠れてよく見えません。
「わたしのこと、神くんと宗太郎さんが、言った、んです、か……?」
「あ、はい、ええと……坂口さん、のことは上の兄が絵をよく描いていてそれで知って、でも付き合っていることは直接聞いたとかじゃなくて兄たちの言動で何となくそうだと思ったんですけど」
「え」
 こちらを向いた顔は明らかに驚いたような表情をしていました。
「ち、違、います。そんなこと、あるわけない。付き合ってなんか、ない。です」
 僕は今までの兄たちの様子を思い返します。兄たちは間違いなく彼女のことを想っているようですし、彼女も今日の様子だけ見ても確実に兄たちに好意を抱いています。お互い想い合っていることも知っているはずです。
 三人の関係が理解できないでいると、また視線を空のお皿に向けたその人は小さな声で続けました。
「二人とも、凄く高いところにいて、わたしには手が届かないような人たちで、だから」
 その気持ちは、僕もよく知っています。この人も僕と同じように。
「それに」
 言葉を選ぶように視線をさまよわせたその人は、結局そのまま黙り込んでしまいました。
 今なら僕も言えるかもしれません。
「この間、あんなことを言ってしまったのは」
 肩が僅かに動いたのが見えました。
「兄たちに好きな人ができてしまったのが悔しかったからなんです。僕は兄たちのことが大好きで、ずっと憧れていたから」
 僕とよく似たこの人に、とられてしまったのが悔しくて、許せなくて。
 考え方を変えれば嬉しいことなのかもしれません。兄たちが選んだのが僕とは全く違うタイプの、美人でよくできた人だったりしたら、兄たちは本当に別の世界の人になっていたのかもしれません。
「本当に、ごめんなさい」
 電話でも謝りましたが、やはりこういうことは直接言わなければいけないと思います。
「え、あ、いえ」
 下げた頭を上げたところで電話が鳴りました。彼女は慌てたように立ち上がり廊下へと出て行きました。
 残された僕はお茶をもう一度すすり目を閉じます。慣れない匂いです。他人の家の匂い。
 今までの僕では考えられないことです。一度しか会ったことのない人の家に来るなんて。
 僕は誰かと親しくなるということが苦手です。人と接するときはどうしても身構えてしまいます。今までの経験が原因かもしれません。僕は人から見下されてきました。たくさん馬鹿にされてきました。この性格がいけないのだとわかってはいても、簡単に直せるものなら誰も苦労はしません。
 兄たちは僕がいじめられていることを知ってはいても、口を出してきたことはありません。それは僕がどうにかしなければいけない問題だからです。ただ一度だけ、小学生の頃、上級生に度が過ぎた酷いことをされて泣いて帰ったときは本気で怒ってくれました。兄たちが何をしたのかは今でもわかりませんが翌日、その上級生たちに土下座で謝られました。目には涙まで浮かんでいたこともよく覚えています。兄たちが僕のために何かしてくれたという事実が、僕にとってはたまらなく嬉しかったのです。
 中学生になったばかりの頃、新任の先生以外の先生は皆、最初の授業で出席をとるときに僕の名前のところで必ずと言っていいほど止まりました。そして何とも言えないような表情で僕を見ました。「あの神か」と。原因はもちろん兄たちです。兄たちがこの学校で大変な騒ぎを起こしたのはその前の月のことでした。詳しいことは知りませんがそれ以前から兄たちは扱いにくい生徒だったようです。小学生の頃はそんなことはなかったと記憶しています。兄たちの仲がおかしくなったのも確か中学に入ってからだったので、それと何か関係しているのでしょうか。
 中学では少し問題児で有名だったらしい兄たちのおかげで助かったことがありました。中学生になっても僕のいじめられ体質は変わりません。入学早々、ひと気のない裏庭で違うクラスの少しワルですという雰囲気の人たちに何故か囲まれて小突かれていたときのことです。恐らく三年生だと思われるかなりワルですという雰囲気の人たちがタイミング悪くやってきました。このときはさすがに僕も絶体絶命だと思いました。でも彼らの反応は僕が想像していたものと違いました。明らかにまずいものを見たという顔でした。それから彼らは慌てたように言いました。
「お前ら何やってんだよ! そいつ、神先輩の……」
 この神先輩というのがどちらのことを言っていたのかはわかりません。もしかしたら二人のことかもしれません。どうして彼らが僕のことを知っていたのかもわかりませんが、とにかく兄たちのおかげでその上級生と、同級生の少しワルですのグループにいじめられる心配はなくなりました。それ以外の同級生のストレスの捌け口となることに変わりはありませんでしたが、別に深刻ないじめというわけではありません。どこにでもよく見られるような、ささいな暴力とからかいの対象になっただけです。幼い頃から続いていることなので慣れっこです。自分でどうにもできないなら耐えるしかありません。
 そんな僕なので女子からも敬遠されています。侮蔑の目で見られることもあります。
 好きな人の弟という立場のせいもあるかもしれませんが、あの人はそういう目で僕を見ることはありません。あの人と僕はどこかで決定的に違いますがやはり似ています。僕の気持ちもあの人ならよくわかるはずです。だから接しやすいのだと思います。

「あの」
 違うところにいっていた意識が遠慮がちにかけられた声で引き戻されました。
「電話、宗太郎さん、が、代われって」
 全身に鳥肌が立ったような感覚に襲われました。
「いないって、言ったんだけど、代わらないなら今からうちに来るって、言ってて」
 上の兄の無駄に鋭い勘を甘く見ていました。上の兄の中では僕がここにいることはすでに確定しているようです。困ったことになりました。出たくはありませんが出ないとますます状況は悪くなってしまうのでしょう。
 兄たちの大切な人に横に立ってもらい電話に出ました。
「もしもし」
『いい友達ができたんだな』
 完全に怒っている声でした。
「この前のこと、謝りたかったから。孝兄に言ったのに忘れちゃったみたいだから」
 僕も別にやましい気持ちがあるわけではないので、ここは下手に動揺を見せてはいけません。よく考えれば僕は何も悪いことはしていません。この間のことを謝って、少し話をしただけです。そもそも兄たちが、僕が謝りに行きたいと言ったことををなかったことにしたのがいけないのです。僕は悪くありません。
『それで家まで押しかけて仲良くお茶して?』
 この家にカメラでも仕掛けてあるのかと、一瞬本気で思ってしまいました。
「別に、何もしてないし」
『してたら殺す』
「だから、何もない、です」
 僕は余程困った顔をしていたのでしょう。黙って僕たちのやりとりを聞いていた彼女が大きめの声で言いました。
「あの、わたしが無理を言って、来てもらったの。二人の話、聞きたいからって」
『……代われ』
 上の兄の言葉に従って僕を庇ってくれたその人に受話器を渡しました。
 馬鹿とかあほとかぼけとかそういう類の幼稚な悪口が洩れて聞こえてきました。
「な、なんで、そんなに怒って」
 兄たちとこの人の間では普段どのようなやりとりがされているのかとても気になります。会話はちゃんと成立しているのでしょうか。
 余計なことを考えていたら再び受話器を渡されました。
『今すぐ帰って来い』
 電話はそのまま切れましたが、今すぐ帰らなかったらどうなるかわかっているだろうなという脅しは十分に伝わったので僕は帰ることにしました。結局話らしい話はほとんどできませんでした。

「今日は、ありがとうございました」
 僕が頭を下げると彼女も頭を下げました。ドアを開けたところで、言い忘れていたことがあったのを思い出しました。
「兄たちは、色々と面倒な人たちなので大変だとは思いますが頑張ってください。僕でよければ相談くらいならのれるので」
 その人はしばらく驚いたような顔で僕を見てから、ゆっくりとぎこちない笑みを浮かべました。

「ありがとう」



 家に帰ると、上の兄と、当然のように下の兄も僕を待っていました。
「……ただ、いま」
「おかえり」
 下の兄のにっこり笑顔で出迎えられて生きた心地がしません。
 味のしない夕食を食べ終えた後上の兄の部屋で正座させられ、あの人の家でのことをこと細かく報告させられました。昨夜の電話の内容もです。今後二度と勝手なことはしないという誓約書も書かされました。誰にも知られたくない恥ずかしい思い出話もたくさんされて少し泣きました。兄たちの記憶力のよさは尋常ではありません。
 それでも覚悟していたよりは甘い罰でした。付き合っていない云々のところと相談にのる云々のところは省いて兄たちの写真を渡したらとても喜んだことを殊更強調して伝えたからでしょうか。「坂口さんの昔の写真も見たいな」と、下の兄が幸せそうな顔をして呟いていました。上の兄は対照的に苦虫を噛み潰したような顔をしていました。下の兄は気にしていないようでしたが上の兄は写真があまり好きではないようなので(事実、上の兄の写真はほとんどが隠し撮り風でカメラ目線のものは大抵撮影者、つまり父を睨んでいました。家族写真も仕方なく写ってやっているという感じです)、勝手に渡したことを快く思ってはいないものの、あの人が喜んでいたという事実は嬉しい、そんな複雑な心境のようです。

 結局兄たちから解放されたのは、それから二時間後のことでした。しつこい男は嫌われるよ、とはもちろん言えません。

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